精錬ボタンが押せない旅人の独白
「推しが強くなる」――それは全オタク共通の悲願であり、幸せのはずでした。
しかし、光が強すぎれば影もまた濃くなるもの。
冬極完凸・終焉完凸を捧げてきた「風神愛」の果てに、私が辿り着いたのは「最強という名の悲しみ」でした。
弊ワットの均衡を自らぶち壊してしまった、一人のオタクの断末魔を聞いてください。
【神修正】運営が、ついに「過去」を救済した。
全旅人が震えた。あの「頑なに直接調整はしない」と鋼の意志を貫いてきたホヨバが、ついに重い腰を上げたのです。
その名も「魔導強化」

アルベドの花が咲き乱れ、風神の吸い込みがかつての威厳を取り戻す。
初期勢の涙でテイワットに新しい海ができるかと思いました。

「推しが再び環境の最前線に立つ」
その事実に歓喜し、私は迷わず有休を申請して、彼を再び「神」の座へと押し上げる準備を整えました。
呼吸をするように完凸。貢いだ諭吉に後悔はない。
私はウェンティが大好きです。
彼の奏でる竪琴の音色を守るためなら、武器ガチャの闇にだって喜んで飛び込みます。
これまでも、「冬極の白星」、「終焉を嘆く詩」をもR5(完凸)にしてきました。

そして今回実装された待望のモチーフ武器。
当然、引きましたよ。呼吸をするように、迷いなく。
「5本(完凸分)」をね……!!

「さあ、神を更なる高みへ――」
そう意気込んで、私は新武器をウェンティに持たせました。
魔導で強化された彼に、最高の牙を与えた。その結果。
弊ワットでついに「禁断の言葉」が漏れてしまった日
今までずっと、自分の中で「暗黙のルール」がありました。 それは、「〇〇の方が強い」なんて絶対に言わないし、考えないこと。
新しいキャラの方が性能が良いなんて、ソシャゲの世界じゃ当たり前のこと。
そんなの分かってるから、いちいち比べたりしない。
「わあ、この子強ーい!」とか「すごーい!」とか、純粋にその子の良さを楽しむ……はずだったんです。
……なのに。
強い。あまりにも強い。
あまりの桁違いな数字を目の当たりにして、脳を通さず、口からぽろっと出てしまった言葉・・・
「魈くんの10倍つよ…」
(わぁああああごめん魈くんーーーー!!)
言ってしまった。ついに言ってしまった。
しかも10倍とかいう具体的な数字までつけて。
だってこんなの…え??昨日まで…え????
ウェンティが、あまりにも、圧倒的に、「破壊神(バルバトス)」になりすぎてしまった。

300%のダメージって何???

会心ダメージ+100%??????
最推しが不憫すぎて、指が動かない。
そう、魈くんです。

業障を背負い、己の身を削りながら降魔を続けてきた、我が最愛の夜叉。
彼が必死に(そしては私も必死に)、泥を啜りながら叩き出してきたダメージを、
隣で風神が、「テヘペロ☆」くらいの軽やかさで、涼しい顔して超えていってしまった。
そう思ってしまった瞬間、猛烈な虚無が。
ウェンティは推しの中の推しなので強くなってこんなにも嬉しいのに…!
嬉しいのに!!!
なんだか…ウェンティが遠く感じる…!!!

いや、神だってことは最初からわかってたんだ。
なんだろう…この気持ちは。。。
「一緒に地元の大学に行こうね」って言ってたのにいきなり
「えへっ!やっぱり東大行くことにした」
と言われたような????
結論:精錬ボタンが押せない。
今、私の武器庫には、精錬されるのを待っている4本のモチーフ武器が並んでいます。

これを重ねれば、ウェンティは更なる「神」へと進化するでしょう。
でも、できない。
精錬ボタンが、魈くんへの「裏切りボタン」にしか見えない。
「最推し(の凸効果)が不憫すぎて、これ以上ウェンティを甘やかしていいのか分からない……」
強さを求めてガチャを回したはずなのに、辿り着いたのは「推しへの配慮による停戦状態」
これが、愛が深すぎたオタクの末路。
「強くなりすぎるのも考えものだね」と、風神の笑い声が聞こえた気がしました。

(完)


